1. タンボラーダとは?
サン・セバスティアンの「タンボラーダ」は、スペイン・バスク地方で最も象徴的な祭りの一つであり、この街の人々にとって一年で最も重要なイベントです。毎年1月20日の聖セバスティアンの日に開催され、24時間街中に太鼓の音が響き渡ります。
祭りの日には、何千人もの市民が伝統的な衣装を身にまとい、バンドとともに力強く太鼓を打ち鳴らします。子どもから大人までが一体となり、サン・セバスティアンの誇りと文化を祝う特別な一日です。この祭りは、単なる音楽イベントではなく、バスクのアイデンティティを象徴するものでもあります。
タケクボこと久保建英選手が所属するレアル・ソシエダがバレンシアとの試合時間の変更によりこのお祭りに参加することが難しくなったためラ・リーガに抗議文を送るほどです。
しかし、タンボラーダの背景には、単なる祝祭以上の歴史的な物語が隠されています。その起源にはナポレオン戦争やフランス軍による占領が深く関わっているのです。
2. タンボラーダの起源と歴史(オンダリビアのタンボラーダも紹介)
軍隊の行進がルーツ
19世紀初頭、ヨーロッパ全土を巻き込んだナポレオン戦争の中で、サン・セバスティアンは戦略的に重要な都市とされました。1808年、ナポレオン率いるフランス軍がスペインに侵攻し、サン・セバスティアンもフランス軍の支配下に置かれました。
フランス軍はこの地を要塞化し、バスク地方全体を統治しました。街中にはフランス軍の兵士が駐屯し、彼らは日常的に太鼓を叩きながら街を行進していました。これはフランス軍独自の軍楽スタイルであり、戦時中の士気を高めるためのものでした。それでも1813年まではまだ平和だったようです。
しかし、この占領は長くは続きません。1813年、イギリス軍とスペイン軍の連合軍がサン・セバスティアン奪還を目指し、フランス軍と激しい戦闘を繰り広げました。8月31日、連合軍はフランス軍を撃退し、サン・セバスティアンを解放しました。しかし、その過程で街は火に包まれ、大きな被害を受けました。悲しいことに戦争の被害も甚大でしたが連合軍による略奪と放火でサンセバスチャンの街は大半が消失してしまったのです。
フランス軍の影響がタンボラーダに
フランス軍が撤退した後、市民たちは戦争の苦しみを乗り越え、再び活気ある街を取り戻そうとしました。その中で、フランス軍が行っていた太鼓の行進(一説にはフランス軍の太鼓の行進を冷やかしていたという説も)が市民たちの間で記憶され、それを模倣する形で「タンボラーダ」の文化が生まれたとされています。
特に、当時のパン職人や料理人たちは、木製の太鼓やバケツを叩きながらパレードを行い、兵士たちの姿を真似して街を練り歩きました。このユーモラスなパフォーマンスが次第に街の伝統として受け入れられ、現在のタンボラーダの形式へと発展していきました。
タンボラーダの伝統衣装とナポレオン軍の関係
現在、タンボラーダでは多くの参加者が「兵士」や「料理人」の衣装を身にまといます。
- 兵士の衣装:フランス軍の兵士に由来しているとも言われ、当時の軍楽隊の影響を感じさせます。
- 料理人の衣装:パン職人や料理人たちがバケツや木製の太鼓を叩いていた名残。
これは単なるコスチュームではなく、ナポレオン戦争の歴史が今なお祭りの中に息づいている証拠なのです。
タンボラーダの意義:歴史を乗り越えた市民の誇り
ナポレオン軍の侵略、サン・セバスティアンの戦火、そしてそれを乗り越えた市民たちの復興。タンボラーダは、単なる祭りではなく、歴史の記憶と誇りが込められた特別な伝統です。
もしサン・セバスティアンを訪れるなら、1月20日のタンボラーダをぜひ体験してください。ただの太鼓の音ではなく、そこには歴史を超えて受け継がれたバスクの魂が響いているのです。
また、1845年には、サン・セバスティアンの有名な作曲家バシリオ・サバラ(Basilio Sabando)が、タンボラーダのために公式マーチを作曲し、現在もこの曲が祭りの中で演奏されています。
オンダリビアのタンボラーダ
サン・セバスティアンと並んで、オンダリビア(Hondarribia)でもタンボラーダが開催されます。オンダリビアのタンボラーダは、9月8日の聖母誕生の祝日(Día de la Virgen de Guadalupe) に行われ、こちらも地域の伝統として受け継がれています。
オンダリビアのタンボラーダは、サン・セバスティアンと同様に軍隊の行進が起源であり、バスク地方のアイデンティティを象徴する祭りです。しかし、サン・セバスティアンが1月の冬に行われるのに対し、オンダリビアは9月の晩夏に開催されるため、観光客にとっても訪れやすいイベントです。
特徴的なのは、オンダリビアのタンボラーダでは**「Alarde(アラルデ)」と呼ばれる行進** が行われることです。これは、1638年にフランス軍の包囲からオンダリビアが解放された歴史を祝うもので、参加者は伝統的な軍服を着て太鼓を叩きながら街を練り歩きます。地元の人々にとっては、地域の誇りを示す重要な行事となっています。
20世紀以降の発展
20世紀になると、サン・セバスティアンのタンボラーダはさらに市民の祭りとしての性格を強め、大規模なイベントへと成長しました。特に1970年代以降、バスク地方の文化復興運動とともに、タンボラーダはバスクの誇りを象徴する祭りとして確立されていきました。
現在では、100以上のグループ(ソサエティ)が参加し、約20,000人もの市民が太鼓を叩く一大イベントになっています。さらに、子どもたちによる「子どもタンボラーダ」も開催され、未来の世代へと伝統が受け継がれています。
3. 祭りの開催日とスケジュール
サン・セバスティアンのタンボラーダ
- 開催日:毎年1月20日(前夜祭は1月19日深夜)
- ハイライト:旗揚げ式(La Izada)、子どもタンボラーダ、旗降ろし式(La Arriada)
オンダリビアのタンボラーダ
- 開催日:毎年9月8日(聖母誕生の祝日)
- ハイライト:「アラルデ(Alarde)」と呼ばれる伝統行進
4. 見どころとハイライト
- 市庁舎前でのオープニングセレモニー:最も象徴的な瞬間。あまりの人の多さに現地で見たことはありません
- 子どもたちのタンボラーダ:昼間に開催される可愛らしいパレード
- 各地区のグループによる演奏:迫力あるリズムが街中に響く
- 伝統衣装と太鼓隊:シェフや兵士のコスチュームが特徴的
5. 地元の人々と参加の仕方
観光客でもタンボラーダを楽しむ方法はたくさんあります。事前に現地のバルに情報を聞いたり、地元の人々と一緒にリズムに乗って楽しむのがオススメです。
6. サン・セバスティアンの美食と楽しみ方
サン・セバスティアンは美食の街としても有名です。祭りと合わせて楽しみたいグルメには以下のようなものがあります。
- ピンチョス(小皿料理):バル巡りをしながら地元の味を堪能
- バスク風チーズケーキ:有名なデザートもぜひ試したい
- チャコリ(Txakoli):バスク地方の発泡白ワイン
7. まとめ:タンボラーダを楽しむためのポイント
タンボラーダを存分に楽しむためには、以下の点を押さえておきましょう。
- 防寒対策をしっかりする(冬のバスク地方は寒い)
- スケジュールを事前にチェックしておく
- 現地のバルで雰囲気を味わいながら観覧する
- 至る所で太鼓の音が聞こえます。目安にして探してみるのも楽しいです。
サン・セバスティアンのタンボラーダは、街全体が熱狂に包まれる特別なイベントです。バスク文化を肌で感じたい方は、ぜひこの機会に訪れてみてください!


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